「海外に売りたい」と言われたら ― 小規模事業者の海外展開支援 5つのステップ

「うちの商品、海外で売れませんかね?」

経営者の方からこう相談されたとき、支援する側は何から考えればよいのでしょうか。そして経営者の方自身は、何を整理してから動き出せばよいのでしょうか。

本記事では、海外展開に関する初回相談のコツを 「聞く → 整理する → 見極める → つなぐ → フォローする」 の5つのステップに沿ってまとめます。

結論から言えば、海外のことを全部知っている必要はありません。 必要なのは、経営課題として整理し、今行くべきかを見極め、適切な専門機関につなぐことです。

海外展開は「目的」ではなく「手段」

海外の相談でありがちなのが、「ベトナムに行きたい」「台湾で売りたい」という国名から始まる相談です。

ここですぐに市場調査を始める前に、一つ確認したいことがあります。「なぜ、海外なのですか?」

たとえば「台湾のお客さまから、すでに問い合わせが5件来ている」という答えなら、かなり具体的です。一方で「テレビで海外市場が伸びていると言っていたから」という答えなら、話は少し変わってきます。

売上を増やしたいのか。取引先を増やしたいのか。国内市場の縮小が不安なのか。海外から引き合いがあるのか。海外は、そうした経営課題を解決するための手段のひとつです。海外展開そのものが目的になっていないかを、最初に確かめます。

「国内への投資ではだめなのか」「海外に出ないという選択肢はないのか」も、あわせて考えておきたいところです。

ステップ1|聞く ― 最初の10分で確認する7つのこと

初回の相談で確認したいことを、7つの質問に整理しています。

  • WHY:なぜ海外なのか
  • WHAT:何を売るのか
  • WHO:誰が買うのか
  • WHERE:なぜその国なのか
  • HOW:どう売るのか
  • MONEY:いくら使えるのか
  • PEOPLE:誰がやるのか
初回相談で聞く7つのこと
初回相談ヒアリングの7項目(JETRO「新輸出大国コンソーシアム」、中小機構「海外展開ハンズオン支援」をもとに作成)

目的、商品、顧客、地域、販売方法、採算、体制。この7つが聞ければ、最初の相談としては十分です。

計画が止まりやすいのは、市場や商品ではなく MONEY(お金)と PEOPLE(人)の部分です。特に小規模企業では、「誰がやるんですか?」が要になります。社長が国内営業も製造も経理も担っている会社に、海外営業まで加わって回るのか。ここを最初に見ておかないと、計画は動き出してから止まります。

ステップ2|整理する ― 小さく始める

「海外展開」と聞くと、現地法人や海外工場を思い浮かべがちです。けれど、小規模企業が取れる方法はもっと幅があります。

海外展開のパターンと難易度
海外展開のパターンを小規模企業の目線で並べ替えたもの(★が多いほど投資負担・難易度が大きい)

一番上のインバウンド対策(訪日客に売る)や間接輸出(商社経由で売る)は、実は国内の取引です。海外展開は、必ずしも海外に出ていくことから始める必要はありません。

私が重視しているのは、次の3つの原則です。

  1. 最初から拠点をつくらない。まず売れるかを試す(テストマーケティング、F/S調査)
  2. 売れる国ではなく、売れる顧客を探す
  3. 売上ではなく、利益と体制を見る

「台湾で売れそうだから台湾法人をつくる」ではなく、まず100個売ってみる。誰が買ったのか、なぜ買ったのか、リピートしたのか、利益はいくら残ったのか。そこから次を考えます。

「売れる」と「儲かる」は別の話

3つめの原則について、もう少し具体的に触れておきます。

国内で5,000円の商品を、海外でも5,000円で売れば同じ利益が残るでしょうか。海外では、国内では発生しなかったコストが乗ってきます。

海外販売で必ず確認する「売れる」と「儲かる」
物流費・関税・販売手数料・代理店マージン・為替・返品対応が上乗せされる

物流費、関税、販売手数料、代理店のマージン、為替、返品対応。国内と同じ値付けでは、これらの分だけ利益が削られ、場合によっては売るほど赤字になります。目安として、アジア圏では国内価格の1.3倍程度(為替や代理店マージンはさらに別途)を見ておく必要があります。

売上が上がっても、利益が残らなければ意味がありません。

ステップ3|見極める ―「今は行かない」も正しい判断

国内の売上が落ち、赤字で、資金に余裕がなく、担当できる人もいない。それでも社長が「海外なら売れると思う」とおっしゃる。こうした場面があります。

海外展開の相談を受けたからといって、海外展開を勧める必要はありません。「今は海外より、国内を整えましょう」も、正しい支援だと考えています。

判断は、2つの軸で整理します。

海外展開準備度の見極め
市場の可能性 × 企業の準備度で次の一手を決める
  • 市場の可能性が高く、準備もできている → 動く
  • 市場の可能性はあるが、準備が足りない → まず準備を整える
  • 準備はできているが、市場が分からない → 調べる
  • どちらも低い → いったん立ち止まる

準備度は、需要・利益・資金・人・規制・国内事業との両立の6点で確認します。

私はこの見極めに、日本政策金融公庫で融資審査に使っていた視点をそのまま当てています。市場性(本当に売れるのか)、成長性(その市場は伸びるのか)、実現可能性(資金・人・体制はあるのか)。新規事業にお金を貸すかどうかの判断基準と、海外に出るべきかどうかの判断基準は、ほとんど変わりません。

あわせて、始める前に撤退の基準を決めておくことをおすすめしています。目安は「売上が計画の50%を下回ったら撤退準備を検討する」。国によっては、撤退を決めてから完了するまでに何年もかかります。出ていく前に、戻り方を決めておく。これも見極めの一部です。

ステップ4・5|つなぐ、フォローする

海外特有の論点で、専門的な判断が必要になったときは、無理に自分で抱えません。小規模事業者の場合、まず確認すべきは次の6つです。

  • 物流:その商品は送れますか?
  • 規制:その国で売れますか?
  • 契約:条件は文書で残っていますか?
  • 代金回収:お金はどう受け取りますか?
  • 為替:利益は為替で損しませんか?
  • 文化・商習慣:相手の商習慣を理解していますか?

この論点が出てきたら、専門機関や専門家につなぎます。

支援者は「ハブ」になる
JETRO・中小機構・金融機関・専門家・自治体をつなぐハブになる(JETRO「中堅・中小企業の海外展開支援」、中小機構「海外展開ハンズオン支援」をもとに作成)

市場を調べたいなら JETRO や中小機構、商談先を探すなら展示会・商談会、初めての輸出なら専門家によるハンズオン支援、資金が必要なら金融機関。つなぐ前に相談内容を整理しておくことで、専門機関の支援も的確になります。

そして、つないで終わりにしないことです。1か月後に「相談はどうでしたか」と聞き、結果を踏まえて次の一手を一緒に考える。つなぐ ≠ 丸投げ。ここまでが支援だと考えています。

海外展開も、結局は経営

目的、顧客、商品、価格、物流、体制。こうして並べてみると、海外展開で確認することは、すべて経営の話です。

海外というだけで特別に構える必要はありません。「なぜ海外なのか」「今、行くべきなのか」「次に何をすべきか」を順番に整理していけば、判断できることの方が多いはずです。

海外展開のご相談を承っています

弊社では、次のような支援を行っています。

  • 海外展開の目的整理と、事業戦略上の位置づけの明確化
  • テストマーケティングを含む、小さく始める海外販路開拓の計画づくり
  • 海外展開に伴う収支計画・資金計画の策定
  • 支援機関の皆さま向けの研修・勉強会の講師

「海外から問い合わせが来たけれど、どうすればいいか分からない」という段階からで構いません。お気軽にご相談ください。